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パンの世界大会〈第5回モンディアル・デュ・パン2015〉大阪応援講習会レポート

パンの世界大会〈第5回モンディアル・デュ・パン2015〉大阪応援講習会レポート【前編】

      2015/09/12

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2015年9月23日からフランスで開催されるパンの世界大会〈第5回モンディアル・デュ・パン〉。日本からはブーランジェリー・フリアンド(神戸夙川)の谷口佳典シェフと、Zopf(千葉松戸)の篠原遼シェフがアシスタントとして、ペアにて出場する。この2名の日本代表選手を応援する講習会関西編がツジ・キカイ堂島ラボで行われた。講習会ではパリゴの安倍竜三シェフ、サ・マーシュの西川功晃シェフらが講師を務め、パン作りを披露。出場国に情報が漏れることも防ぐために、あいにく出場選手が大会で出品する作品や手元風景を公開することはできないが、当日の模様をお届けしたい。

〈第5回モンディアル・デュ・パン〉とは

2015年9月23日から27日にかけて、フランスのサンテティエンヌで行われるパンの世界大会〈第5回モンディアル・デュ・パン〉。同じくフランスで3年に1度開催されるベーカリー・ワールドカップ〈クープ・デュ・モンド ラ・ブーランジェリー〉や、ドイツのミュンヘンで開催される〈ibaカップ〉などと共に、〈モンディアル・デュ・パン〉は権威ある大会のひとつで、日本はリテイルベーカリーのネットワークを強化しながら、良い成績を出すために力を注いでいる。

2015年と2016年はパンの世界大会が連続で行われる

今年2月の〈モバックショウ2015〉や東京の応援講習会などを経て最終調整に入った2人。8月4日の応援講習会には満席となる約100名が集まり、会場は必然的に熱気に包まれる。日本アンバサドール協会事務局長を担当する株式会社グローアップ古田高浩社長が開始時間の10時にマイクを握り、日本アンバサドール協会の理事であり、第4回と第5回のコーチを務めるカネカ食品の山﨑隆二シェフを紹介。山﨑隆二シェフは〈クープ・デュ・モンド〉にて日本が初めて優勝した会でチームリーダーを務めている。「今年はドイツのibaが大会1週間前にあり、それから〈モンディアル・デュ・パン〉を迎えます。そして2016年は〈クープ・デュ・モンド ラ・ブーランジュリー(ベーカリー・ワールドカップ)〉があります。お互いに刺激しあって、大会に臨めるのではないでしょうか。」と挨拶。東京と大阪の応援講習会でたくさんの人が駆けつけたことに感謝の言葉を述べた。

カネカ食品の山﨑隆二シェフ

カネカ食品の山﨑隆二シェフ

ブーランジェリー・ラパンのルメ・パトリックシェフ「ガレート・デゥ・パタテゥ」

東広島市西条にある「ブーランジェリー・ラパン(Boulangerie LAPAIN)」のルメ・パトリック(Patrick Lumet)シェフは、フランスで見習いパン職人として道を歩みだし、1989年に同国の国家資格C.A.P(セアペ)を取得。2005年に来日し、ラパンを開業。現在、同店のシェフを務める傍らで、広島の学校法人古沢学園・広島製菓専門学校にて製パン講師としても活躍している。サ・マーシュの西川功晃シェフは「パトリックは〈モンディアル・デュ・パン〉に無くてはならない存在。大会だけではなく、日本のベーカリーがフランスと交流していく中で、すごく重要な存在になる」と話す。

ブーランジェリー・ラパンのルメ・パトリックシェフ

ブーランジェリー・ラパンのルメ・パトリックシェフ

「ガレート・デゥ・パタテゥ(Garret douce Patate)」はじゃがいもとバター生地を織り込んで焼き上げるヴィエノワズリー。Garret(ガレット)はガレット・デ・ロワやガレット・ブルトンヌなどに見られるような「平面」、Patateは「ポテト」のこと。つまり「ポテトのガレット」という意味。出身地であるフランスのヴィリー=シャティヨンで16時におやつとして食べられるとのことだ。いわゆる郷土菓子で、ヴィリーではほとんどの人が知っているが、パリに出ると認知度はほとんど無いらしい。

バターの使用量はパン生地の1/3とかなりリッチ感がある。フランスはバターが安く、また、いいものを使うということを惜しまないため、このくらいの量が使用される。ヴィリー=シャティヨンでは折り込みバターの代わりに山羊のチーズを使うとのことだった。

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のこね上げ生地

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のこね上げ生地

「ガレート・デゥ・パタテゥ」の生地は黄色くしっかりとしている

「ガレート・デゥ・パタテゥ」の生地は黄色くしっかりとしている

牛刀でで「ガレート・デゥ・パタテゥ」を分割していく

牛刀でで「ガレート・デゥ・パタテゥ」を分割していく

「ガレート・デゥ・パタテゥ」の分割後に丸め作業をする

「ガレート・デゥ・パタテゥ」の分割後に丸め作業をする

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のしっかりしたパン生地

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のしっかりしたパン生地

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパン生地丸め

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパン生地丸め

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパン生地を次々と丸めていく

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパン生地を次々と丸めていく

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパン生地を丸めていくムッシュイワン小倉孝樹シェフとラパンのルメ・パトリックシェフ

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパン生地を丸めていくムッシュイワン小倉孝樹シェフとラパンのルメ・パトリックシェフ

パイ生地の折り込みに入るルメ・パトリックシェフ

パイ生地の折り込みに入るルメ・パトリックシェフ

「ガレート・デゥ・パタテゥ」パイ生地カット風景

「ガレート・デゥ・パタテゥ」パイ生地カット風景

「ガレート・デゥ・パタテゥ」パイ生地ローラーカット風景

「ガレート・デゥ・パタテゥ」パイ生地ローラーカット風景

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパイ生地をローラーでカットするカネカ食品の山﨑隆二シェフ

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のパイ生地をローラーでカットするカネカ食品の山﨑隆二シェフ

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のクープ入れ

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のクープ入れ

今回使用したじゃがいもは、旨味とねばりが特徴の赤土で育てられた東広島市「安芸津馬鈴薯」。粉は伸展性に優れた扱いやすい強力粉「ブリリアント」を使う。パン生地にはイーストを入れないということに驚いた。そのため、折り込み時に厚み6mmほどの生地は、固く戻りやすいので注意が必要、とパトリック氏は話していた。焼成の時間は「焼き色が付いたらOK」だそうだが、約25分とのこと。

外がサクサク、中がもっちりとしている。じゃがいもの程よい粘り気は食べやすくで、バターの香りがとても良い。食事パンとしては食べないそうだが、白ワインとの相性が素晴らしいとパトリック氏は解説していた。そしてお店では1日に20個程度焼き上げ、人気があると話す。パンの水分にはヨーグルトを使っているので、ミルク感も感じ取れる。フランスの甘くない地方菓子は、思っていたよりも素朴な味で、家庭で作れる手ごろ感もあって、ちょっとした旅気分も味わえる。のどかな田園風景と庭の山羊、そして水車が脳裏に浮かんでくるパンだった。

「ガレート・デゥ・パタテゥ」はクープで葉の模様を表現

「ガレート・デゥ・パタテゥ」はクープで葉の模様を表現

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のサクサクとしたパイ生地

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のサクサクとしたパイ生地

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のもちもちとしたじゃがいもと生地

「ガレート・デゥ・パタテゥ」のもちもちとしたじゃがいもと生地

ブーランジュリー・オーヴェルニュ井上克哉シェフの「ブリオッシュ(70%中種法)」

東京立石にある「ブーランジュリー・オーヴェルニュ(BOULANGERIE AUVERGNE)」の井上克哉シェフは日本アンバサドール協会理事を務め、ドイツで行われた第2回〈ibacup〉にも出場。同会の監督も担当している。中村屋、ビゴの店、ドンクを経て、2003年に同店を開業。2014年2月にはイタリアをコンセプトとして、ピザ窯を使って高温で焼成するナポリピッツァやイタリアパンが食べられるカフェ「ラ・タヴォラ・ディ・オーヴェルニュ(La tavola di Auvergne)」を新小岩にオープンしている。

ブーランジュリー・オーヴェルニュ井上克哉シェフ

ブーランジュリー・オーヴェルニュ井上克哉シェフ

今回は小麦粉の一部にインスタントイースト副材料を混ぜ込んで発酵させる中種法のブリオッシュを披露。イタリアは朝から甘いパンを食べる風習があるようで、ブリオッシュももちろんその中に含まれる。オーヴェルニュではブリオッシュを年中6〜8種類ほど用意しているとのこと。

「ブリオッシュ(70%中種法)」の生地にはキューピータマゴから新しく登場した液全卵を使っているが、この商品は開封後3週間の保存可能で、小ぶりサイズなので廃棄も出ず、かなり使い勝手がいいとのことだ。暑い季節はサルモネラ菌の発生確率が高いため、活躍が期待される。また、今回はバターの代わりにカネカ食品のノヴァマーガリンを使用。自然なバター風味が特徴で、焼き上がりの嫌なにおいも無く、焼きたてバター感が持続する。

「ブリオッシュ(70%中種法)」の発酵後の丸め生地

「ブリオッシュ(70%中種法)」の発酵後の丸め生地

メープルクリームの説明をするブーランジュリー・オーヴェルニュ井上克哉シェフ

メープルクリームの説明をするブーランジュリー・オーヴェルニュ井上克哉シェフ

生地にメープルクリームを絞っていく

生地にメープルクリームを絞っていく

メープルクリームを絞り出して成形へ入る

メープルクリームを絞り出して成形へ入る

鉄板の上にコの字型に成形生地を置く

鉄板の上にコの字型に成形生地を置く

ヘーゼルキャッチャを絞って粉糖をする

ヘーゼルキャッチャを絞って粉糖をする

サクサクとしたクッキー生地はヘーゼルナッツの味が口の中を駆けまわる。カルピス、脱脂粉乳、卵黄、バターなどを贅沢に使ったパン生地は程よいふわふわ感がある。その中に包まれたメープルクリームがチーズのように濃厚で、ゆっくりと舌の上で甘みがとろけてゆくのだ。

ブーランジュリー・オーヴェルニュ井上克哉シェフの「ブリオッシュ(70%中種法)」

ブーランジュリー・オーヴェルニュ井上克哉シェフの「ブリオッシュ(70%中種法)」

サクサクとしたクッキー生地と濃厚なメープルクリーム

サクサクとしたクッキー生地と濃厚なメープルクリーム

ブーランジュリー・グウ東野篤シェフの「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」

大阪谷町六丁目にある「ブーランジュリー・グウ(BOULANGERIE GOUT)」の東野篤シェフは日本アンバサドール協会の理事を担当。「青い麦」で修行後、M.O.F(国家最優秀職人賞)を取得したフランスのパン職人の元で腕を磨く。2008年に同店をオープン。

ブーランジュリー・グウ東野篤シェフ

ブーランジュリー・グウ東野篤シェフ

「5〜6年ほど前から北海道産を中心として、軽くておいしいパンを作れる国産小麦の品種がたくさん出てきたと感じています。そして様々なパンを作れるようになりました。身近に小麦を作っている農家があるのに、何故使わないのかという疑問があって、2〜3年前から国産小麦にこだわるようになり、つい先日も北海道の農家や製粉会社にスタッフと共に出向き、小麦の収穫に立ち会いました」

東野篤シェフは国産小麦を使うことに対し、こう話した。

「山本忠信商店の「はるきらり ロング挽き(別称:一本挽き)」はデンプン質がガラスチックで、フランスパンにするとパリっとした皮になるのが特徴です。一方の平和製粉「キタノカオリ ロング挽き」は濃い味が出て吸水性も高いため、水分の多い生地を一晩寝かすことで旨味を引き出せます。」

キタノカオリと、はるきらり。この2つを合わせることで、パリっとし過ぎない、食べやすい食事パンを目指したそうだ。

「国内産を多く使うようになってから気づくことが色々とありました。外国産に比べると、旨味が高くて、もっちりとしていて、水分が多く入ります。日本は従来は稲作が中心ですし、国内産はそういった人たちにも合うのではないかと感じています。少し砂糖を入れて食べやすくしたり、米油(液体なので入れても固まらない)を使ったりと、国産小麦を阻害しないようなパン作りをしています。」

オーバーナイト16時間で低温長時間発酵したパンは甘みに刺がなく、静かに広く小麦が香る。チーズのカンパーニュは、下火で少し焼き焦げたフリコエダムチーズ・パウダーの部分がおこげのようで、クラム(中身)の甘みをより引き立てた。さぬき塩や三温糖、そして米糠油を使って、国産小麦向きのパンを作った東野シェフ。今後も国内産小麦はより良く進化してゆくだろう。ということは、東野シェフのパン作りには、もっとバリエーションが出てくるだろうし、ブーランジュリー・グウに行く楽しみも増えるはずだ。

ブーランジュリー・グウ東野篤シェフの「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」

ブーランジュリー・グウ東野篤シェフの「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」

「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」はみずみずしい国産小麦のもっちり感と香りがある

「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」はみずみずしい国産小麦のもっちり感と香りがある

「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」チーズ

「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」チーズ

「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」チーズのかりかり感

「キタノカオリ×はるきらりのフロマージュ・ドゥーブル」チーズのかりかり感

パン工房フルニエの坂田隆敏シェフ「道産Type70バゲット」

大阪府和泉中央にあるパン工房フルニエの坂田隆敏シェフは開口一番「僕のところね、ちょうど労働基準監督署に入られまして。」と話し、会場にはどよめきと笑いが渦巻いた。

パン工房フルニエの坂田隆敏シェフ

パン工房フルニエの坂田隆敏シェフ

「短時間でいかに早く作るかということを最近やっていまして。」

ベンチタイム60分を取らずにリュスティック風に仕上げていくバゲットを披露した。分割から約60分後には焼きあがるスピーディーなハード系パンだ。「国産小麦は特徴的なものが好き」と話す坂田氏は最近、強力粉は好みというヤマチュウの「ラ・リュンヌType70」を使用。ヤマチュウの担当者によると、キタノカオリ、ホクシン、春よ恋、はるきらりの4種をブレンドし、小麦の甘みを引き出す長時間熟成の生地に合うとのこと。

「パネオトラッド(ホイロを必要としないボンガード社の分割成形機)は高くてなかなか買えないので、いかに短時間で作るかを考えています。製粉会社と食パンを2時間半で作れないかと相談しています。今、3時間15分で仕上げるところまできています。」

仕込みから焼成まで、パン作りには時間がかかる。こだわればこだわるほど手間がかかるのは仕方のないことだが、時間には限りがある。どうやっておいしく短時間で仕上げるのだろうか。

「短時間で仕上げるには成形は畳むくらいの感覚で潰さないようにやっています。」

なるほど、近年、一次発酵した生地中のガスを抜かずに成形に入るベーカリーが多いのだが、これはわざわざよい香りが出た空気を抜く必要があるのかという問題。そして二次発酵の短縮化も担っているように感じている。

スピーディーなバゲット。くどさがなくシンプル。比較的に厚みのあるクラストは食べ応えもある。何本でも食べられそうだ。強力粉に対して塩分は1.9%だが、今回の中では塩味が強く感じられ、肉料理やシチューなどと共に、食事パンとしての相性も良さそうだった。成形から焼き上がりまでは本当に早い。これを朝昼夜いつでも出せるとしたら、小さなベーカリーの強い味方になるのではないだろうか。

パン工房フルニエの坂田隆敏シェフ「道産Type70バゲット」

パン工房フルニエの坂田隆敏シェフ「道産Type70バゲット」

分割から1時間で焼きあがる「道産Type70バゲット」

分割から1時間で焼きあがる「道産Type70バゲット」

「道産Type70バゲット」は塩分も感じられ、料理にも相性が良さそうだ

「道産Type70バゲット」は塩分も感じられ、料理にも相性が良さそうだ

パンの世界大会〈第5回モンディアル・デュ・パン〉大阪応援講習会レポート【後編】

パンの世界大会〈第5回モンディアル・デュ・パン〉大阪応援講習会レポート【後編】では、サ・マーシュ西川功晃シェフ「ブレッド・トリコロール」と「本日の昼食」、ブーランジュリー・パリゴ安倍竜三シェフ「パート・ド・バーズ(ベース生地)」、フリアンド谷口シェフほかの言葉をお届けする予定だ。

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