PAINLOT

パンの水先案内人。ベーカリーニュース、おいしいパン屋さんの取材記事、マルシェなどのイベント情報を掲載。

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パンヲカタルの浅香正和さん

パンで人と笑顔をつなげたい | 〈パンヲカタル×グロワール 秋の新作試食会〉イベント後記

      2016/05/17

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“パンでひとがつながり、たくさんの方々が笑顔になる”というコンセプトのもと、大阪市周辺を中心に活動している浅香正和さんと、大阪市千林大宮のパン屋さん「グロワール」が秋の新作試食会を開いた。場所は昨年オープンしたばかりでグロワールからも近いマチカフェ。満員御礼となった会では、「干し柿と甘栗とさつまいもの自家製酵母パン」など秋の新作や、看板商品「パン・ド・グロワール」ほか、さまざまなパンの試食、そして浅香さんやグロワール一楽虎光シェフがパンに対する想いを語った。その様子をお届けしたい。

パンヲカタルの浅香正和さんの想い

2015年9月20日(日)、京都市内から京阪電車で森小路駅へ向かう。駅から徒歩10分くらいでマチカフェ(Machicafe)に到着。時間ギリギリだったため、すでに皆さんは着席し、今か今かと待ち構えていた。その熱気たるや、相当のものを感じてしまった。というのも、この日の主宰である浅香正和さんは、日本パンコーディネーター協会公認のパンコーディネーターの資格と、パンシェルジュ検定1級を取得した方で、パンに対する愛情や情熱は非常に高い方だ。4月12日に京都みなみ会館にて開催した〈シニフィアン・シニフィエのパンづくり上映会(ゲスト:パンラボ池田浩明さん)〉に参加して下さったときに声をかけて頂き、筆者は浅香さんと知り合い、今回のイベントに出席する機会に恵まれた。

森小路と千林大宮から近いマチカフェ

森小路と千林大宮から近いマチカフェ

浅香さんはパンを通してつながっていくプロジェクト「パンヲカタル」として活動している。“パン屋さんの想い、パンへの想い、ヒトへの想い”を伝えるために、さまざまなパンイベントを企画したり、パン屋さんとコラボレーションし、新しいパンを提案。“その熱気たるや、相当のもの”と前述したが、浅香さんのまわりにはパンに対する思いの強い方が自然と集まり、この日も熱心に話を聞き、そして参加した方々が打ち解けて、つながっていく光景が見られた。

大阪千林大宮の老舗「グロワール」について

「昨日もドキドキして3時過ぎまで眠れなかったんですけど楽しい時間にしたいと思います。」と少し緊張した面持ちで浅香さんは口を開き、もう一人の主役であるグロワール(正式名称:グロワールキムラヤ)について話をする。グロワールは千林大宮で1959年に創業し、56年目を迎えた老舗ベーカリーだ。浅香さんはグロワールに初めてきたときに「子供の頃に遊んだことのあるような商店街の中にあった」と感じたそうだが、どこか懐かしさのある、人が近くに感じる通り沿いにお店があると言えばよいのだろうか。千林といえば千林商店街が有名で、大阪を代表する商店街のひとつだ。個人商店が軒を連ね、活気があるその光景こそ、ザ・大阪という印象を受ける。その千林商店街を抜けた先にあるグロワールがある通りは、長閑さもある。故に人が近く感じるのかもしれないし、居心地の良さもあったりする。「地元の方に長く愛されている」との浅香さんの言葉に、こうした意味合いが含まれているのだと実感した。

大阪千林大宮のパン屋さんグロワール

大阪千林大宮のパン屋さんグロワール

グロワールの「クルミとイチジクのブリオッシュ」「カマンベールチーズの自家製酵母パン」

グロワールの「クルミとイチジクのブリオッシュ」「カマンベールチーズの自家製酵母パン」

グロワール「いちじくとくるみの自家製酵母パン」「干し柿と甘栗とさつまいもの自家製酵母パン」

グロワール「いちじくとくるみの自家製酵母パン」「干し柿と甘栗とさつまいもの自家製酵母パン」

看板商品のデニッシュ食パン「パン・ド・グロワール」

試食の一番手は浅香さんも推薦人として掲載されている『パン本 (洋泉社MOOK)』や『日本全国お取り寄せ手帖 vol.3 (扶桑社ムック)』などにも載っている看板商品の「パン・ド・グロワール」。イタリアの発酵種パネトーネ種を使い水分活性とpHを低下させて酸性を強め、微生物の動きを抑制することで、日持ちが圧倒的に優れているデニッシュ型の角食パンが生まれる。特筆すべきは柔らかで豊かな風味。それに外側のさくさくした部分と、ふわふわのブリオッシュがいい塩梅なのである。浅香さんは「几帳面なパンでそのまま食べてほしい」と解説。トーストしなくても芳香さと中身の甘い香りが辺りに広がる。そして見た目も美しく、手土産にもおすすめできる。この商品はグロワールのオンラインショップでも全国通販可能とのことだ。

パネトーネ種で日持ちがよいグロワールのデニッシュ食パン「パン・ド・グロワール」

パネトーネ種で日持ちがよいグロワールのデニッシュ食パン「パン・ド・グロワール」

パン・ド・グロワールの綺麗なクラストとふわふわのクラム

パン・ド・グロワールの綺麗なクラストとふわふわのクラム

パンコンテスト受賞作品「クルミとイチジクのブリオッシュ」

2014年度のパングランプリ大阪で、くるみ部門最優秀賞大阪府知事賞を受賞したパン。キャラメルとクリームチーズをブリオッシュ生地に練り込むことで、ほのかな苦みやコクとミルキィな味わいがある。キャラメリゼされたくるみのカリカリ感、そしてイチジクのじゅわ~っとしたプチプチ感が実にリズミカル。ハグミュージアムで開催された〈第3回 大阪パンステージ〉では、すぐに売り切れとなった人気商品だ。

グロワールの「クルミとイチジクのブリオッシュ」

グロワールの「クルミとイチジクのブリオッシュ」

カマンベールチーズの自家製酵母パン

レーズンで作った酵母種を中種法で24時間長時間発酵させて粉の旨味を引き出したパン。全粒粉生地の風味と香ばしさが豊かで、チーズのかりかり、中のじゅくじゅくとろとろ感が美味しかった。

グロワール「カマンベールチーズの自家製酵母パン」

グロワール「カマンベールチーズの自家製酵母パン」

いちじくとくるみの自家製酵母パン

酵母を使ったパンだったが、比較的にソフトでたべやすい印象を受けた。くるみの香ばしさと食感のアクセント。噛めば噛むほどにいちじくの果汁が口の中にあふれてくる。

グロワール「いちじくとくるみの自家製酵母パン」

グロワール「いちじくとくるみの自家製酵母パン」

干し柿と甘栗とさつまいもの自家製酵母パン

秋の果実パン。旬の素材は王道中の王道だが、あふれんばかり具材が詰まっていて、存分に秋の味覚を楽しめる。それぞれの甘味が口の中で弾けて混ざるような感覚があった。外皮のヒキの強さもあって、噛みごたえも抜群。参加者に特に人気の高かったパンだ。

グロワール「干し柿と甘栗とさつまいもの自家製酵母パン」

グロワール「干し柿と甘栗とさつまいもの自家製酵母パン」

陸前高田のりんご「ふじ」で作った自家製酵母パン(チキンソースのブルーチーズ)

メインのパンは、陸前高田にある和野下果樹園の金野秀一さんが作った希望のりんご「ふじ」を使ったもの。この日、パンのサーヴなどを担当したグロワールの一楽千賀さんは、パンラボ池田浩明さんが主宰する東日本大震災の復興支援に参加し、実際に現地へ向かい、お手伝いもしている。その中で金野さんからりんごの話も聞き、「パンを通じて復興に協力したい」という想いのもと、このパンが生まれた。このりんごから酵母を起こし、パン作りの水分もりんごジュースを使用。農家の想いも、復興の支援も詰まった大変贅沢なパンなのである。 パンは全粒粉生地で、歯切れと香ばしさ、そしてフルーティーな風味がよく出ていた。チキンソースにはブルーチーズにはデンマークのブルーキャステロを使っていたが、クセ時代はマイルドな方で、クリーミーで口当たりがよく、とても食べやいものだった(白ワインとの相性は最高だと思う)。

ハチミツとオリーブオイルのドレッシングがけされたフリルレタスやロマネスコなどのサラダ、トマトとマッシュルームのスープもパンに良く合い、美味しく頂いた。

グロワール「陸前高田のりんご「ふじ」で作った自家製酵母パン(チキンソースのブルーチーズ)」

グロワール「陸前高田のりんご「ふじ」で作った自家製酵母パン(チキンソースのブルーチーズ)」

トマトとマッシュルームのスープ

トマトとマッシュルームのスープ

ハチミツとオリーブオイルのドレッシングがけされたフリルレタスやロマネスコなどのサラダ

ハチミツとオリーブオイルのドレッシングがけされたフリルレタスやロマネスコなどのサラダ

グロワールの一楽千賀さんとパンヲカタルの浅香正和さん

グロワールの一楽千賀さんとパンヲカタルの浅香正和さん

ブリオッシュと和野下果樹園のりんご「さんさ」で作るコンフィチュール

デザートは和野下果樹園のりんご「さんさ」をコンフィチュールとして使用し、生クリームを添えたブリオッシュ。あまり聞き慣れない品種の「さんさ」は、藩政時代から続く岩手県盛岡の「さんさ踊り」が由来。昭和53年から毎年8月に〈盛岡さんさ踊り〉という催しが行われているが、この「さんさ」の収穫もその頃から。8月から9月にかけて摘まれるということだ。食べてみるとしゃきしゃきとした食感、甘酸っぱい味わいが特徴で、ジューシーな果肉から蜜が溢れ出る。ふわふわでリッチな生地に角切りのりんごが輝いて見える。ブリオッシュもりんごも黄金色で、きらきらとしていた。そこから果樹園に注ぐ太陽の光を連想し、自然の賜物であるりんごにどこか愛おしさを感じてしまった。それはグロワールが震災から5年半が経過した現在でも復興支援に関わっているからそう感じてしまったのかもしれない。地震は人も街も一瞬の津波に飲み込んでしまった。それはとても儚いできごとであったが、同時に立ち上がることができる人の強さも教えてくれた。この日に出されたパンにもりんごにも、力強さや生命力が存在していたように思う。

ブリオッシュと和野下果樹園のりんご「さんさ」で作るコンフィチュール(生クリーム添え)

ブリオッシュと和野下果樹園のりんご「さんさ」で作るコンフィチュール(生クリーム添え)

和野下果樹園のりんご「さんさ」をコンフィチュールとして使用

和野下果樹園のりんご「さんさ」をコンフィチュールとして使用

マチカフェのオリジナルブレンドコーヒー

マチカフェのオリジナルブレンドコーヒー

マチカフェのボードにはお店の想いが書かれていた

マチカフェのボードにはお店の想いが書かれていた

マカダミアナッツの自家製酵母パン(新作)

イベント後に参加者全員でグロワールに向かった。お店の前で協賛のジャワティーと、新作「マカダミアナッツの自家製酵母パン」をお土産として配って頂いた。ごろごろのマカダミアナッツは、コリコリでシャリシャリの食感。徐々ににじみ出てくる香ばしさがあって、「さんさ」で作ったドライアップルによる甘味もじわりじわりと広がる。マカダミアナッツと言うと、どうもハワイを連想してしまって、チョコレートスプレッドをかけたくなってしまうが、それもきっと相性がいいと思う。

グロワールの新作「マカダミアナッツの自家製酵母パン」

グロワールの新作「マカダミアナッツの自家製酵母パン」

レーズン種の天然酵母食パン

グロワールには約20種類もの食パンが並ぶ。今回は「レーズン種の天然酵母食パン」を購入した。自家製酵母はレーズンとリンゴで、微かな酸味の果実感が口に広がる。国産小麦のもっちりとした食パンで、比較的にヒキが強く、食べ応えがある。ミルキーな味わいが余韻として喉に残り、酸味を中和して円やかさを醸し出す。そのままでもトーストしてもおいしい。

グロワール「レーズン種の天然酵母食パン」

グロワール「レーズン種の天然酵母食パン」

〈パンヲカタル×グロワール〉を終えて

イベントの最中、グロワールの一楽虎光シェフが焼き上がったばかりのパンを運んで来て下さった。浅香さんによると、コラボパンは何回も試作したのだという。そうしたこだわりがおいしいパンを生む。グロワールはいわゆる街の小さなパン屋さんだが、ソフトからハードまでアイテム数がとても多いことで知られる。「商店街で子供さんから年配さんまで誰が来てもがっかりされないように」というパン職人の気持ち。一楽虎光さんは話し上手ではないという。だから「パンで応える」のだ。今日味わったパンたちには、力強い気持ちがこもっていた。それは浅香さんを通しても参加者に伝わったはずだ。

参加者へ丁寧に語りかけるグロワールの一楽虎光シェフ

参加者へ丁寧に語りかけるグロワールの一楽虎光シェフ

あっという間に時間が過ぎていき、楽しいひとときは終わりを迎えた。「パンで人がつながり、たくさんの笑顔が生まれる」「街のパン屋さんを応援して、一緒に作りたい」というパンヲカタルの気持ちはひしひしと伝わってきた。大阪にはベーカリーは多いものの、パン屋さんとお客さんをつなぐイベントはまだまだ少ない。浅香正和さんやグロワールの今後の活動に注目していこうと思う。

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