【レポート前編】パン職人による京都の白熱講習会〈手づくりパン屋さんのパンLesson! 3〉
2016/10/24
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2016年7月26日(火)、8月30日(火)に京都府伏見区竹田の株式会社京都麻袋(またい)にて、京都と尼崎のパン職人による〈手づくりパン屋さんのパンLesson! 3〉が行われた。HANAKAGO、手ごねパン教室ル・アンジェ×てごねぱん教室cui、Bread market やさしい風、雨の日も風の日も、アトリエ・ヴォンス、ココ・キラリ×コネルヤ、志津屋のシェフが家庭でも焼くことが出来るパンの数々を伝授。両日共に定員は60名だったが、予約開始1分で満席になるという盛況ぶりで、当日は白熱の講習日となった。写真を差し込みながら、その模様の前編をお届けしよう。
〈手づくりパン屋さんのパンLesson!〉の経緯とは?
そもそも、〈手づくりパン屋さんのパンLesson!〉はどのような経緯で催されるようになったのだろうか。きっかけは極々自然なものだったようだ。雨の日も風の日も(北大路)の小島秀文シェフ、志津屋(京都府)の小林健吾シェフらが職人同士で意見交換したり、飲み会などを開く内に、「にじいろ会」として少しずつ少しずつ輪が広がっていった。そして、その中から一般向けパン作り講習会ができないだろうかという話が持ち上がり、開催されるようになったのだと言う。
今回で3回目となる〈手づくりパン屋さんのパンLesson!〉には、気軽に家庭でパンを焼きたい方はもちろん、実際にお店を持ち、プロとして活躍されているシェフらも講習を受けていた。初心者からプロまでを対象とし、工程は分かりやすくも、プロ顔負けの味わいを作ることをテーマとした講習会なのだ。
「やっぱり美味しいものをお腹いっぱい食べたいやん」森田農園(上賀茂)の森田良彦さん
3回目を迎えた〈手づくりパン屋さんのパンLesson!〉ではHANAKAGOの花籠シェフ、アトリエ・ヴォンスの森シェフが中心となり、5回ほどのミーティングを重ねてからの開催。参加者の方により楽しんで頂きたいとのことで、上賀茂で京野菜を作っている森田農園の森田良彦さんをゲストに招き、お話を伺う試みが行われた。森田農園は上賀茂で100年以上の歴史があり、農家3代目の森田良彦さんは4代目の晃司さんと共に、万願寺唐辛子、聖護院大根、水菜、賀茂茄子といった京都地場野菜づくりに励んでいる。
開口一番、「私は百姓と思っていません。生命維持産業で“一粒の種は命を救う”ということでやっています」と森田さんは言う。とある宿泊施設でお客さん向けに収穫体験も行い、それをレストランに卸し、シェフが材料にして調理したメニューを食べて頂くこともしているそうだ。
「やっぱり美味しいものをお腹いっぱい食べたいやん」
森田さんは農家さんに「その野菜食べてる?」と問う。すると「食べない」と答える人がいるという。何故か。農薬を使っているからだという。自分が食べられない野菜をどうしてお客さんに出すのか。少しの農薬を使った野菜を摂取し続けても、体に影響を起こすこと無い(摂取量の話)。最近は規制が厳しくなり、野菜の種類ごとに限定された農薬しか使えなくなっているそうだ。
「自分が食べられない野菜は売らないよね? 自分の家庭で食べられるものを作ってくださいよ」と農家の後輩に伝えているという。
野菜でもパンでも言えることだが、世間は見た目を気にする。スーパーの野菜は形と見た目はおいしく見えるけど、実際は酸化しているそうだ。できるだけ生産者の見える野菜を買って食べるのが一番だ。
虫が付いているとおいしい野菜とメディアでは言われるが、実はとても苦くて食べられないという。森田農園では年に1回は土壌分析をし、データの中からなるべく化学肥料や農薬を使わずに、形を整えていくことをしている。野菜はバランスと健康状態がいいと、虫付きも少なくなるそうだ。
「パンと土はよう似てる。土も発酵することによって、浄化されておいしい野菜ができる。」
いつまでも健康でいたいのなら腸内環境を良くすることも大切と森田さんは言う。乳酸菌が入っているので、がん抑制の効果も期待できる「すぐき」。そのすぐきを乾燥させてパウダーにし、「すぐき漬けパン」をアトリエ・ヴォンスの森シェフと作った。
「京都新聞にも取材を受け、これから展開していこうと思っている」
市場に流れていない地元の野菜を使って何かできないかなと常に模索し、新しい取り組みを始める。
「せっかくパン教室をしているのなら、いろんなことに挑戦してほしい」
講習会の参加者にアドバイスを送り、森田農園の話が終わった。
HANAKAGO(四条烏丸)花籠賢俊シェフ「ポレンタパン」
京都烏丸でハード系を中心に作っているHANAKAGO。北イタリアで食べられている郷土料理「ポレンタ」をテーマとした。イタリアの食材「ポレンタ」はコーンフラワーやコーンミールなどを粥状に煮たもので、バター・塩・オリーブオイルなどで味付けし、チーズやソースなどをかけて食べることもあるという。そのポレンタ粉を使用し、パンを作っていく。
昨年の第2回〈手づくりパン屋さんのパンLesson!〉では、味が濃い料理に合う塩なしパン「パーネ・トスカーノ」を焼いた花籠シェフだったが、やはりテーマはイタリアの郷土料理やワインに合うパン。両者がお互いの持ち味を引き出し、マリアージュを楽しむということが大切だとを参加者に伝えた。
京都寺町通下るにあるイタリア料理店「ポレンタ」。HANAKAGOはパンを卸しているが、チーズに合うパンを作りたいと考えた末に出来たのが「ポレンタパン」だったと言う。このパンに合うチーズっぽい濃度の高い茄子のムースを作ってほしいと、てごねぱん教室cui鍵井真紀シェフに依頼した。この講習会ではパンとムースで一つの作品が完成するのだ。
ポレンタ粉はMULINO MARINO(ムリーノ・マリーノ)社のものを使う。1つのトウモロコシに付き8列しかできないため、粒が大きいことが特徴だ。このポレンタ粉はオーガニックで、石臼挽きするために粒が粗い。苦味や甘みもあるので味わい深く、言わば全粒粉に近いらしい。風味が高いので、著名なレストランからも評価を受けていると言う。
黄色いポレンタ粉で最初に種を作る。ポレンタは吸水がよく、郷土料理の場合でも5〜6倍の水を入れて練っていくらしい。花籠シェフは熱湯を入れて、ゴムベラやミキサーで練っていき、冷蔵庫で一日置き、味をなじませて種が完成する。
花籠シェフはパティシエ出身。自家製パンを作っていたレストランにいたため、料理に合うパン作りが原点だった。驚くべきことにパン作りはHANAKAGOをスタートしてからのため、まだ4年目である。パンの知識を気にせず、おいしいものを作る。モットーは良い素材を使うこと。こうして生まれるパンは、今ではレストラン、ワインバー、和食、カフェなどから30軒ほどの注文が舞い込み、卸しも店売りも大忙しのパン屋さんになった。
講習会は楽しい方がいい。生地があまりベタベタせず作りやすくて、美味しくて、お酒にも合う。そんなパン作りがいいのではと花籠シェフは話す。ポレンタ種も、バターを入れた本捏ねパン生地もまとまりやすく、ストレスを感じない作り方を考えて、レシピにしている心遣いが初心者にも嬉しいはずだ。
成形も俵型で、誰にでも出来そうに作られていた。焼きあがったあとは薄くスライスして、オープンサンドなどでも活躍できそうだなと思った。ちなみにHANAKAGOでは、レストランや家庭でトーストすることも考えて、パンの焼き色は浅めだという。食べる人のことを考えた気遣いが嬉しい。
ポレンタ生地のグリッシーニ。二度焼きすることでサクッとした食感を演出。トウモロコシの甘み、石臼挽きポレンタ粉の苦味がオリーブオイルや生ハムとも相性良好。2週間は保存が効くところもいい。
HANAKAGO「ポレンタパン」。粉は日清製粉のフランスパン粉「クラシック」と「北海道産強力粉 キタノカオリ」。コーンのふわりとした香り。かなり塩分が効いている。お酒のおつまみにも持って来いな感じ。粒々感がアクセントになって面白い。クセのあるブルーチーズやディップなどにも負けない。短めの発酵時間ということもあり、さっくりして軽い食感だった。HANAKAGOでは毎週土曜日に焼き上げているので、週末のディナーと共に活躍してくれそうだ。
手ごねパン教室ル・アンジェ青山里香シェフと、てごねぱん教室cui鍵井真紀シェフの「焼き茄子のムース」
京都嵐山で「てごねぱん教室cui」を主宰する鍵井真紀シェフ、滋賀県大津市瀬田で「手ごねパン教室 ル・アンジェ」を主宰する青山里香シェフ(残念ながら講習会は不参加)は、前述の通り、HANAKAGOのポレンタパンに合う「焼き茄子のムース」を作っていく。
最初に「茄子のピューレ」を解説。「森田農園の茄子は味がしっかりしていて、甘さも感じる」と話す鍵井シェフ。茄子は直火か魚焼き器でよく炙り、スモーキーな香りを出すことがポイント。20分くらい焼くと、茄子からじわっと汁がにじみ出てくるという。熱いうちに皮を向き、昆布出汁を一緒にミキサーで撹拌。これで「茄子のピューレ」が完成する。
この「茄子のピューレ」を使って、「茄子のムース」を作る。材料は生クリーム、ゼラチン、昆布茶、砂糖、塩と非常にシンプルだ。何故なら、森田農園の茄子はしっかりしているので、素材の味を損なわないように、整える程度で良いという。
手ごねパン教室ル・アンジェ青山里香シェフと、てごねぱん教室cui鍵井真紀シェフの「焼き茄子のムース」。講習会のお昼ごはんとして登場。森田農園のフレッシュな野菜からは生命力を感じずにはいられない。焼き茄子の香ばしさと、ポレンタパンの穀物感が組み合わさり、深いコクと甘みや苦味が複雑に絡み合う。ムースはポレンタパンにも、グリッシーニにもよく合っていて、濃厚な味わい。ワインにもきっと合うはずだ。
雨の日も風の日も(北大路)小島秀文シェフ「ほうれん草とトマトと紫芋のブリオッシュ」
京都北大路の「雨の日も風の日も」。数々のコンテストの受賞歴を持つ小島秀文シェフは、今回の講習会で野菜を3種使い、カラフルなブリオッシュを作る。
卵とバター50%が入るので家庭で作るのが難しいブリオッシュ。小島シェフは家庭でも作りやすいブリオッシュを考え、今回の提案に至ったと言う。「キメが揃ってしっとりしている」というイメージからスタートしたレシピ作り。トマトパウダー生地、京都亀岡産の紫芋を使ったペースト、そして決め手は森田農園のほうれん草を使った生地。香り高く、ほうれん草の味がしっかりとしているという。そのため、市販のほうれん草パウダーは2倍の量が必要になる。余談だが、小島シェフの「雨の日も風の日も」ではこの賀茂茄子を輪切りにしたものを乗っけたピザパンを作っているそうだ。
一次発酵はビニールを入れた空の牛乳パックで行うというのもユニーク。グルテンの力をつけるため、牛乳パックは立てて、90〜120分ほど発酵させていく。成形方法はトマトパウダー生地を綿棒で伸ばし、紫芋ペーストを絞ってからほうれん草パウダー生地を上に載せる。それからピザカッターで切れ込みを入れ、斜めに巻いていき、転がして棒状の形を作る。三つ輪にしてからマフィン型に入れて焼成。
講習会では参加者も成形に参加できるのが大きな特徴。写真の通り、多くの人が前に出て、プロのパンづくりを学んだ。
雨の日も風の日も「ほうれん草とトマトと紫芋のブリオッシュ」。ほうれん草、トマト、紫芋の野菜感があり、大変しっとりして口どけもいい。バターの香りが豊かでトーストすることで食欲が増す。ミネラル感もかなりあるので、何も付けずに食べても、かなりの食べごたえがある。チョコクリームを塗っても、中に包み込こむのもおすすめ。雨の日も風の日もではブリオッシュ生地の「濃厚ショコラ」を販売しているので、一度試してほしい。
〈手づくりパン屋さんのパンLesson! 3〉のレポート後編について
【レポート後編】パン職人による京都の白熱講習会〈手づくりパン屋さんのパンLesson! 3〉では、Bread market やさしい風(尼崎)片桐力シェフ「ベーグル」、アトリエ・ヴォンス(北山)森久人シェフ「パン・オ・ショコラ」、ココ・キラリ(藤森)内田雅彦シェフ×コネルヤ(二条)内山健二シェフ「ロールケーキみたいなパン」、志津屋(京都)小林健吾シェフ「バゲットモヒートの練乳レモンクリーム」の模様をお届けしたい。